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事件 平成 21年 (ワ) 31755号 損害賠償請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2011/07/29
判例全文
判例全文
平成23年7月29日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成21年(ワ)第31755号 損害賠償請求事件

口頭弁論終結日 平成23年7月6日

判 決

東京都板橋区<以下略>

原 告 X

同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 小 野 瀬 有

岩 田 充 弘

東京都文京区<以下略>

(登記簿上の本店所在地 東京都文京区<以下略>

被 告 株 式 会 社 本 の 泉 社

千葉県柏市<以下略>

被 告 Y

上記2名訴訟代理人弁護士 松 井 繁 明

主 文

1 被告らは,原告に対し,連帯して24万円及びこれに対する平成19年7月

2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告Yは,原告に対し,12万円及びこれに対する平成21年5月30日か

ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 被告株式会社本の泉社は,原告に対し,12万円及びこれに対する平成22

年2月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5 訴訟費用はこれを4分し,その1を被告らの負担とし,その余は原告の負担

とする。

6 この判決は,1から3項に限り,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由


1
第1 請求

1 被告らは,原告に対し,連帯して110万円及びうち100万円に対する平

成19年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告Yは,原告に対し,35万円及びうち30万円に対する平成21年5月

30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 被告株式会社本の泉社は,原告に対し,35万円及びうち30万円に対する

平成22年2月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 本訴請求の要旨は,次のとおりである。

(1) 第 1 の 1 の 請 求

原告は,被告Y(以下「被告Y」という。)が執筆し,被告株式会社

本の泉社(以下「被告本の泉社」という。)が発行,販売した「合格!

行政書士 南無刺青観世音」と題する書籍(平成19年7月1日初版第

1刷発行。以下「本件書籍」という。)について,

ア 被告らが原告の許諾を得ずに原告が被告Yの左大腿部に施した十一

面観音立像の入れ墨(以下「本件入れ墨」という。)の画像(ただし,

陰 影 が 反 転 し ,セ ピ ア 色 の 単 色 に 変 更 さ れ て い る 。以 下「 本 件 画 像 」と

いう。)を本件書籍の表紙カバー(別紙の1。以下「本件表紙カバー」

と い う 。)及 び 扉( 別 紙 の 2 。以 下「 本 件 扉 」と い う 。)の 2 か 所 に 掲

載 し た こ と は ,原 告 の 有 す る 本 件 入 れ 墨 の 著 作 者 人 格 権( 公 表 権 ,氏 名

表示権,同一性保持権)を侵害する,

イ 原告の人格, 誉を傷付ける記述及び原告のプライバシーに関する記


述がされており, れらの記述は原告の人格権及びプライバシー権を侵


害する,

として,被告らに対し,@著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償

請求権に基づき損害賠償金77万円(慰謝料70万円,弁護士費用7万


2
円)及びうち70万円に対する不法行為の後の日である平成19年7月

2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,並び

にA人格権及びプライバシー権侵害の不法行為による損害賠償請求権に

基づき損害賠償金33万円(慰謝料30万円,弁護士費用3万円)及び

うち30万円に対する前同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合

による遅延損害金の各支払を求めている。

(2) 第 1 の 2 の 請 求

原告は,被告Yが平成19年7月1日以降インターネット上の自己の

ホームページ(以下「本件ホームページ1」という。)に本件表紙カバ

ーの写真を掲載していることは,原告の有する本件入れ墨の著作者人格

権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)を侵害するとして,被告Yに

対し,著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき損害

賠償金35万円(慰謝料30万円,弁護士費用5万円)及びうち30万

円に対する不法行為の後の日である平成21年5月30日から支払済み

まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。

(3) 第 1 の 3 の 請 求

原告は,被告本の泉社が平成19年7月1日以降インターネット上の

自社のホームページ(以下「本件ホームページ2」といい,本件ホーム

ページ1と併せて「本件各ホームページ」という。)に本件表紙カバー

の写真を掲載していることは,原告の有する本件入れ墨の著作者人格権

(公表権,氏名表示権,同一性保持権)を侵害するとして,被告本の泉

社に対し,著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき

損害賠償金35万円(慰謝料30万円,弁護士費用5万円)及びうち3

0万円に対する不法行為の後の日である平成22年2月26日から支払

済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。

なお,原告は,本件訴訟において,本件入れ墨の著作権(複製権,翻案


3
権,公衆送信権〔送信可能化権を含む。〕)侵害に基づく損害賠償は請求

しないとの意思を明らかにしている。

2 前 提 事 実 (証拠等を掲記したもののほかは当事者間に争いがない。)

(1) 当事者等

ア 原告は,住所地において「X1」の屋号で彫物師を業としており,後記

のとおり,被告Yの依頼により同人の左大腿部に本件入れ墨を施した。

イ 被告本の泉社は,主に医療に関する出版物の企画,編集,出版等を

業とする会社であり,後記のとおり,本件書籍を発行,販売し,自社

のホームページに本件表紙カバーの写真を掲載した。

ウ 被 告 Y は ,原 告 か ら 本 件 入 れ 墨 を 施 さ れ た 者 で あ り ,後 記 の と お り ,

本件書籍を執筆し,自己のホームページに本件表紙カバーの写真を掲

載した。

(2) 本 件 入 れ 墨

原告は,平成13年10月19日,被告Yから入れ墨の施術の依頼を

受け,同年11月1日から同年12月25日までの間,6回にわたり,

同人の左大腿部に本件入れ墨を施した。

なお,本件入れ墨の向かって右側には,被告Yの依頼により,原告に

よって漢字20文字の縦書きで「観世音菩薩 常願常守護 我為不要似

愛 御 名 A 」と の 入 れ 墨 が さ れ て い る( 以 下 ,同 部 分 を「 本 件 文 字 部 分 」

という。)が,同部分は本件訴訟において請求の原因となる著作物の対

象とはされていない。

(3) 本 件 書 籍

本件書籍は,被告Yが執筆し,被告本の泉社が発行,販売し,平成1

9年7月1日に初版第1刷が発行された。本件書籍の初版発行部数は1

500部であり,平成23年6月12日までの実売部数は243部であ

った。(乙10の1〜4,弁論の全趣旨)


4
本件書籍には,被告Yの自叙伝とともに行政書士試験の受験記が叙述

されており,本件表紙カバーには別紙の1のとおり,本件扉には別紙の

2のとおり,それぞれ本件画像が掲載されている。(甲9)

本件画像は,原告が本件入れ墨の施術後に本件入れ墨の写真を複数枚

撮影してこれらを被告Yに無償で譲渡し,被告Yがそれらの写真の中か

ら1枚(乙8の2に掲載されたもののうち下段右端の写真)を選択し,

これを加工して作成したものである。(弁論の全趣旨)

(4) 本 件 ホ ー ム ペ ー ジ 1

被告Yは,「行政書士 Y1法務事務所」の名でインターネット上に

ホームページを開設しており,平成19年7月1日以降,同ホームペー

ジ に 本 件 表 紙 カ バ ー の 写 真 を 掲 載 し て い た 。( 甲 2 の 1 ,弁論 の 全 趣 旨 )

(5) 本 件 ホ ー ム ペ ー ジ 2

被告本の泉社は,インターネット上に自社のホームページを開設して

おり,平成19年7月1日以降,同ホームページの商品一覧のコーナー

に 本 件 表 紙 カ バ ー の 写 真 を 掲 載 し て い た 。( 甲 1 0 ,1 9 ,乙 1 0 の 1 ,

弁論の全趣旨)

3 争点

(1) 本 件 入 れ 墨 の 著 作 物 性

(2) 著 作 者 人 格 権 侵 害 の 成 否

(3) 人 格 権 及 び プ ラ イ バ シ ー 権 侵 害 の 成 否

(4) 損 害 及 び そ の 額

4 争点に関する当事者の主張

(1) 本 件 入 れ 墨 の 著 作 物 性

〔原告の主張〕

入れ墨の一般的な制作過程は,@依頼者の希望する図柄を基に輪郭線

による下絵を作成し,A下絵を基に転写機を使用して皮膚に貼り付ける


5
貼り絵を作成し,B貼り絵を皮膚に転写して,機械針とインクを使用し

て輪郭線から墨入れをし(筋彫り),C次に輪郭線以外の描線を墨入れ

し,D更に「ぼかし」と言われる描線の中の墨入れを繰り返して,最終

的に入れ墨を完成させるというものであり,その詳細は以下のとおりで

ある。

ア 下絵の制作

(ア) 入 れ 墨 を す る 絵 柄 に つ い て は , 被 告 Y が 依 頼 の た め に 最 初 に 訪 問

し た 平 成 1 3 年 1 0 月 1 9 日 ,被 告 Y の 希 望 を 受 け て ,「 日 本 の 仏 像

1 0 0 選( 主 婦 と 生 活 生 活 シ リ ー ズ 3 2 8 )」( 佐 藤 昭 夫監 修 ,平

成 8 年 1 0 月 2 0 日 株 式 会 社 主 婦 と 生 活 社 1 刷 発 行 。以 下「 日 本 の 仏

像 1 0 0 選 」と い う 。)の 中 か ら 1 1 頁左 側 に 掲 載 さ れ た 向 源 寺 観 音

堂( 滋 賀 県 )の 十 一 面 観 音 立 像 の 写 真( 以 下 ,同 仏 像 を「 本 件 仏 像 」,

同 写 真 を「 本 件 仏 像 写 真 」と い う 。)を 薦 め ,こ れ に 倣 う こ と を 相 互

に合意した。

そ の 際 ,被 告 Y は ,本 件 仏 像 の 全 身 像 を 希 望 し た が ,原 告 は ,仏 像

の頭上にある何面かの顔の表情を生かすために仏像の上半身だけと

す る こ と ,本 件 仏 像 は 向 か っ て 右 向 き で あ り ,こ れ を そ の ま ま 採 用 す

る と ,同 被 告 が 希 望 す る 左 大 腿 部 に 施 術 し た 場 合 に は ,同 被 告 に 対 し

背を向ける格好となるので,逆の左向きにすることを提案した。

さ ら に ,被 告 Y は ,本 件 仏 像 の 表 情 は ,険 し い 表 情 と 優 し い 表 情 の

中間ぐらいの表情なので, れよりも穏やかな表情で作ってほしいと


要望したので, 告は, れに応じて下絵を作成することを約束した。
原 こ

(イ) 被 告 Y に 入 れ 墨 を 施 す た め の 第 1 回 目 の 予 約 日 が 平 成 1 3 年 1 1

月 1 日 と な っ た の で ,原 告 は ,上 記 第 1 回 目 の 予 約 日 ま で の 間 に 上 記

(ア)の 合 意 に 従 い 下 絵 を 制 作 し た 。

下 絵 の 制 作 に 当 た り ,原 告 は ,本 件 仏 像 写 真 を 手 元 に 置 き ,こ れ を


6
参考にして太さ0. oのシャープペンシルで下絵を描いた。 の際,
5 そ

仏 像 の 向 き を 左 向 き に 変 え ,さ ら に ,顔 の 表 情 は ,写 真 の と お り で は

な く ,こ れ よ り も 優 し い 表 情 の も の と し て 仕 上 げ た 。こ う し て ,出 来

上がったものが甲3の1の下絵 以下 本件下絵」 いう。 である。
( 「 と )

(ウ) 上 記 の よ う に , 原 告 は , 本 件 仏 像 写 真 を 参 考 に し た も の の , 仏 像

の 向 き を 変 え ,か つ ,表 情 を 被 告 Y の 希 望 に 沿 っ て 優 し い も の と し た

点において,下絵における創作性がある。

イ 輪郭線の墨入れ(筋彫り)

(ア) 本 件 下 絵 を 被 告 の 大 腿 部 に 転 写 し , そ の 転 写 さ れ た 輪 郭 線 に 沿 っ

て筋彫りと呼ばれる墨入れをする場合には高度な技術を要する。 れ


は ,皮 膚 と 筋 組 織 と の 間 の 皮 下 組 織 に 墨 を 入 れ る た め で あ る 。そ の た

め ,技 能 の 修 練 度 に よ り ,輪 郭 線 の 出 来 上 が り の 巧 拙 に 影 響 を 及 ぼ す

も の で あ り ,こ れ が 最 終 的 な 入 れ 墨 の 完 成 の 度 合 い ,美 醜 に も 影 響 を

及ぼすことになる。

(イ) 上 記 の よ う に , 輪 郭 線 の 墨 入 れ に お い て も , 施 術 者 固 有 の 創 作 性

がある。

ウ 輪郭線以外の描線の制作

(ア) 輪 郭 線 の 墨 入 れ ( 筋 彫 り ) の 次 の 作 業 と し て , 輪 郭 線 に は 描 か れ

ていない細部の描線を直接施術部位に描き, れに対する墨入れをす


る 。こ れ を 行 う に は ,ま ず ,医 療 用 の 特殊 な ペ ン を 用 い て 皮 膚 に 描 線

を描き,その描線に従って細部にわたった墨入れをする。

(イ) こ れ は , 施 術 部 位 の 皮 膚 に 直 接 特 殊 な ペ ン で 描 き 込 み を し , そ の

上で墨入れをするものであるから, 件仏像写真を参考にしながらも,


施術者である原告の美的な感覚と高度な技能を必要とするものであ

る か ら ,輪 郭 線 以 外 の 微 細 な 描 線 を 描 き ,墨 入 れ を す る 点 に お い て も

高度な創作性がある。


7
エ ぼかしの墨入れ

(ア) 輪 郭 線 及 び 描 線 の 墨 入 れ が 完 了 し た 後 , 画 像 の 表 情 を 生 か し , ま

た ,立 体 感 を 出 す た め に ,ぼ か し と い わ れ る 墨 入 れ を す る 。そ の ため

に ,原 告 は ,黒 色 の イ ン ク( 墨 )を 濃 淡 5 色 に 調 合 し ,か つ ,施 術用

の針も5本組のものと12本組のものを使い分け, 像に濃淡のグラ


デーションをつけて完成させた。

(イ) こ の ぼ か し の 墨 入 れ の 技 能 及 び セ ン ス は , 入 れ 墨 の 完 成 度 を 大 き

く左右するものであり,ここにプロの施術者としての創作性がある。

オ 以 上 の と お り ,本 件 入 れ 墨 は ,被 告 Y の 依 頼 に 従 っ て 本 件 下 絵 を 作 成

してから完成に至るまで, れぞれの段階において特有の技能及び美的


感覚を駆使して制作するものであり, 人をもって代えられない高度な


創作性があるから,著作物と認められる。

〔被告らの主張〕

本件入れ墨は,本件仏像写真の単なる機械的な模写又は単なる模倣に

すぎず,著作物性を認めることはできない。

ア 本件下絵の作成について

本 件 下 絵 は ,写 真 の 上 に ト レ ー シ ン グ ペ ー パ ー を 重 ね ,上 か ら 鉛 筆 又

はシャープペンシルで描線をトレースして作成したものにすぎない。写

真が存在するのにわざわざ手書きで描写する彫物師はいない。 必要な


手間をかけ,依頼者に負担をかけることになるからである。

このようなトレースは極めて機械的なものであり, こには下絵作成


者の創作性は存在しない。

イ 下絵から入れ墨施術部位への転写について

本 件 下 絵 か ら 貼 り 絵 を 作 成 し ,こ れ を 入 れ 墨 施 術 部 位 に 貼 り 付 け ,裏

側 の イ ン ク を 皮 膚 に 定 着 さ せ る 過 程 は ,全 て 機 械 的 転 位 に す ぎ ず ,そ こ

には創作性の入る余地はない。


8
ウ 輪郭線の描写について

こうして皮膚に転写された輪郭線に原告は多少の描線を書き入れて

い る が ,両 者 を 比 較 し て み る と ,最 も 大 き な 違 い は 仏 像 の 首 飾 り 部 分 で

あ る 。同 部 分 は 本 件 下 絵 に は な い が ,元 の 本 件 仏 像 写 真 に は 存 在 し ,本

件 下 絵 で は こ れ を 省 略 し た に す ぎ な い 。し か も ,書 き 込 ま れ た 首 飾 り は

写真よりも簡略化されている。ここにも創作性は認められない。

それ以外の相違点は, 物師なら誰でも思い付く程度のものにすぎず,


創作性を認めるに値しない。

エ ぼかしについて

原告は立体感を出すためにぼかしを入れ, こに創作性があると主張


する。

確かに, 物師が独自の解釈に基づき写真の陰影とは全く区別された


ぼかしを入れることによって新しい映像を創り出した場合には, 郭線


が写真と同一であっても,そこに創作性を認める余地がある。しかし,

本件入れ墨の場合, のぼかしはほぼ本件仏像写真の陰影と同一であっ


て,これは写真の模倣にすぎず,創作性を認めることができない。

オ 以 上 の と お り ,本 件 入 れ 墨 に は 創 作 性 を 認 め る こ と が で き な い か ら ,

本件入れ墨は著作物とは認められない。

(2) 著 作 者 人 格 権 侵 害 の 成 否

〔原告の主張〕

ア 公表権侵害

原告が被告Yの左大腿部に施した本件入れ墨は, 告Yの外貌に対し


て行ったものではなく, 常生活において着衣に隠れた場所に施したも


のであり,広く社会に対し公表することを予定するものではなかった。

原告が著作物である本件入れ墨を写真又は写真を掲載した出版物等

において公表する権利は,一身専属的に原告に帰属している。


9
しかるに, 告の許諾を得ないまま原告の著作物である本件入れ墨を


本件書籍及び本件各ホームページにおいて本件画像により公表した被

告らの行為は,原告の公表権を侵害するものである。

被 告 ら は ,原 告 が 他 の 媒 体 で 本 件 入 れ 墨 を 公 表 し て い る か ら ,本 件 入

れ墨は未発表のものではなく, 告に本件入れ墨の公表権はないと主張


す る 。し か し ,著 作物 を い か な る 媒 体 に お い て い か な る 形 式 で 公 表 す る

か は ,専 ら 著 作 者 で あ る 原 告 に 専 属 す る 権 利 で あ り ,著 作 者 の 承 諾 し て

いない媒体に著作物を掲載することは, 作者の一身専属的な権利であ


る公表権を侵害するものである。

イ 氏名表示権侵害

本件入れ墨の著作者である原告は, 件入れ墨について氏名を表示す


る 権 利 を 有 し て お り ,原 告 は ,本 件 入 れ墨 を 含 む 自 己 の 作 品 を 公 表 す る

際は,氏名(屋号)を表示して発表している。

しかるに, 告らは原告の氏名を本件画像が掲載された本件書籍及び


本件各ホームページにおいて表示していないので, 告の氏名表示権を


侵害している。

ウ 同一性保持権侵害

原告が著作した著作物は, 告Yの左大腿部に施した本件入れ墨その


ものである。

被告らは, 告が本件入れ墨の完成後に被告Yに交付した本件入れ墨


の写真のうち1枚を利用して本件表紙カバー及び本件扉に本件画像を

印刷して掲載した。

本件入れ墨は, 施術者の皮膚の表面に入れ墨用の特殊なインクを用


いて墨入れをすることにより完成するものであり, の皮膚の色と墨入


れをしたインクが一体のものとなって画像の美しさを構成するもので

あ る 。し か る に ,被告 ら が 本 件 書 籍 に 掲 載 し た 本 件 画 像 は ,天 然 色 で は


10
な く モ ノ ク ロ ー ム で セ ピ ア 色 の 写 真 風 の 画 像 と な っ て お り ,し か も ,そ

の陰影については本件入れ墨とは大きく隔たりのあることは明らかで

あって,原告の同一性保持権を侵害している。

〔被告らの主張〕

ア 公表権について

公表権は, 発表の著作物についてのみ主張できるが, 告は X2」
未 原 「

の 名 義 で い ず れ も 入 れ 墨 専 門 誌 の「 バ ー ス ト 」平 成 1 4 年 3 月 号 ,「 月

刊 実 話 ド キ ュ メ ン ト 」同 年 4 月 号 ,「 タ ト ゥ ー・バ ー ス ト 」同 年 5 月 号

な ど 各 種 出 版 物 に 本 件 入 れ 墨 を 公 表 し て い る 。ま た ,原 告 のホ ー ム ペ ー

ジ上に平成21年4月14日まで数年間にわたり本件入れ墨を表示し

てきたことが判明している。

以 上 の と お り ,原 告 は 既 に 本 件 入 れ 墨 を 公 表 済 み で あ る か ら ,公 表 権

を主張することはできない。

イ 氏名表示権について

本件書籍で被告らが原告の氏名を表示しなかったことは認める。

し か し ,著 作 権 法 1 9 条 3 項 は ,「 著 作 者 名 の 表 示 は ,著 作 物 の 利 用

の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を

害するおそれがないと認められるときは,公正な慣行に反しない限り,

省略することができる。」と定めている。

本件書籍における本件入れ墨の利用目的は, 件入れ墨の芸術的価値


を付加することによって本件書籍の価値を高めることにあったのでは

な い 。か え っ て ,被告 Y が そ の 人 生 の 中 で 特 定 の 女 性 に 対 す る 強 い 心 情

から痛苦に耐えて本件入れ墨を施したことを記し, の人生の集約又は


象徴として本件入れ墨を表出したものと認められるべきである。 筆の


中に, の内容の集約又は象徴として絵画, 真などを掲載することは,
そ 写

公の慣行に属し, に著作者名を表示しなければ著作者の利益を害する



11
と認められる場合でない限り, 作者名を省略することが許容されるべ


き で あ り ,本 件 は 正 に こ れ に 該 当 す る 。ま た ,本 件 画 像 は 原 告 か ら 無 償

譲渡された写真によるものであって, 告もその合理的範囲における利


用をあらかじめ容認していた。

ウ 同一性保持権について

本 件 画 像 が ネ ガ と ポ ジ を 反 転 さ せ ,か つ ,モ ノ ク ロ 化 し た も の で あ る

ことは認めるが, のことが同一性保持権を侵害するとの原告の主張は


争う。

前記のとおり, 件画像は原告から無償譲渡された写真によるもので


あって, 告は当該写真の利用方法につき何らの制約も加えるところが


な か っ た 。し た が っ て ,被 告 ら が 無 償 譲 渡 さ れ た 写 真 を 本 件 書 籍 に 掲 載

す る 際 ,ネ ガ と ポ ジ を 反 転 し ,モ ノ ク ロ 化 し た こ と は ,原 告 の 許 容 し た

利用範囲にとどまり,原告の同一性保持権を侵害するものではない。

(3) 人 格 権 及 び プ ラ イ バ シ ー 権 侵 害 の 成 否

〔原告の主張〕

ア 人格権侵害

(ア) 原 告 は , 約 1 3 年 前 か ら 住 所 地 に お い て , 「 X 1 」 の 屋 号 で 彫 物

師 を し て き た 。こ の 間 ,自 ら の 努 力 に よ り 研 さ ん を 重 ね ,こ の 業 界に

お い て の 評 価 を 得 ,地 歩 を 固 め て き た 。こ の 意 味 で ,原 告 は 専 門 技能

者としての自負があり, れは原告の人格権を構成する重要な要素で


ある。

(イ) 本 件 書 籍 は , 平 成 1 8 年 度 の 行 政 書 士 試 験 に 合 格 し た と い う 被 告

Y が ,出 生 か ら 様 々 な 苦 難 及 び 不 祥 事 ,病 気 を 乗 り 越 え て ,そ の 試験

に合格したという来歴を自ら記述したものであるが, の苦難や不祥


事を記述することによって試験合格の達成を自賛するような構成と

なっており,このことが本件書籍のセールスポイントとなっている。


12
そ の 中 で ,著 者 で あ る 被 告 Y が ,自 身 の 来 歴 に つ い て 特 に 強 調 し て

い る こ と は ,@ 幼 児 期 に お い て 家 庭 的 に 恵 ま れ な か っ た こ と ,A 就 職

に失敗したこと, 勤務した映画館において横領をして解雇されたこ
B

と ,C こ の 間 ,女 性 に 金 銭 を 貢 い だ が ,結 局 ,だ ま さ れ た こ と ,D そ

の 女 性 に 影 響 さ れ て ,脇 に そ の 名 前( 源 氏 名 )を 彫 り 込 ん だ 本 件 入 れ

墨 を し た こ と , E そ の 女 性 の た め と の 考 え か ら 入 れ 墨 を し た も の の,

そ の 女 性 か ら だ ま さ れ て い た こ と が 分 か り ,う つ 病 に 陥 り ,精 神 科 に

通 院 し て 治 療 を 受 け た こ と ,F し か し ,こ れ を 乗 り 越 え て ,行 政 書 士

試験に合格したことである。

(ウ) こ の よ う な 構 成 の 中 で , 原 告 が 施 し た 本 件 入 れ 墨 に 関 し て , 被 告

Yは,次のような記述をしている。

a 「 三 〇 歳 の 最 も 仕 事 が 充 実 し て い た 時 ,私 は あ る 事 件 に よ り 事 実

上 の 懲 戒 免 職 に な り ,多 額 の お 金 を 失 い ,刺 青 を 入 れ た こ と や ,他

の事情が重なったこともあって精神が錯乱し, 起不能とまで宣告


さ れ る 状 態 に 陥 っ て い た 時 期 が あ っ た 。」( 本 件 書 籍 2 5 頁 1 〜 3

行目)。

b 「 あ の A 1 ( 判 決 注 : 前 記 (イ)C 〜 E の 女 性 ) の 借 金 返 済 の 肩代

わ り ,彫 り 上 げ た 刺 青 と い う プ ラ イ ベ ー ト に お け る 混 乱 に ,そ の 時

の 私 の 解 決 能 力 は 奪 わ れ て し ま っ て い た 。」( 同 1 5 7 頁 1 〜 2 行

目)。

c 「 だ が ,そ れ でも 私 の 病 み き っ て い た 精 神 は ,最 後 ま で ,正 常 な

状態に戻ることはなかった。

〈 も う ,全 て 終 わ り だ 。手 は 尽 く し た 。も う ,独 り で は ,自 分 が

ど う な っ て し ま う の か ,俺 に は ど う し た ら よ い の か 分 か ら な い 。苦

労 し て 辿 り 着 い た は ず の 天 職 に も ,心 身 喪 失 の ま ま ,手 が つ か な く

なってしまっていた。 去の苦しい借金の経験から地道に貯め続け



13
て き た 貴 重 な 貯 え も ,半 分 以 上 も 自 ら の 手 で 捨 て て し ま っ た 。信 じ

られなくなった刺青が重くて, えられそうにない。 1のことも,
耐 A

こ れ 以 上 は 信 じ 続 け ら れ な い 。も う ,誰 も 信 じ ら れ な い 。生 き て い

るのも辛い〉」(同157頁13行目〜158頁2行目)。

d 「 気 づ い た ら 錯 乱 状 態 の ま ま ,会 社 と 目 と 鼻 の 先 に あ る 近 く の 金

券 シ ョ ッ プ で ,私 は 業 務 用 の 招 待 券 を ,七 万 二 〇 〇 〇 円 の 現 金 に 換

金 し て い た 。私 の そ れ ま で の 功 績 を 考 慮 し て い た だ い た の か ,懲 戒

免 職 を 告 げ ら れ ,自 宅 待 機 と な っ た 二 日 後 に ,「 自 己 都 合 退 職 」扱

いに変更された。」(同158頁4〜6行目)。

e 「 信 念 の 崩 れ 去 っ た 刺 青 の 彫 り も の ,天 職 を 捨 て 去 る に 至 っ た 事

実 上 の 懲 戒 免 職 ,闇 に 葬 ら れ た ま ま の 借 金 の 肩 代 わ り 。そ の す べ て

がほぼ同時に私の身に起こり, して私の因果でそれらがつながっ


て い る 。そ し て ,人 間 不 信 の ま ま ,再 起 叶 わ ぬ こ と と な っ た 映 画 館

への希望。」(同177頁13〜15行目)。

f 「 〈 俺 が B 先 生 ( 判 決 注 : 前 記 (イ)E の 精 神 科 の 医 師 ) に , もし

今 ,事 情 を 話 し て み た と し て も ,俺 の こ れ ま で の 人 生 の 傷 が ,そ れ

に よ っ て 治 癒 す る も の で は な い 。そ れ に ,言 え る わ け な い で は な い

か! 俺ですらいまだ整理できておらぬ, の複雑な現実をだ!


刺青の彫りもの! 事実上の懲戒免職! 借金の肩代わり! い

ったいこれらのことをどうやって他人であるB先生に説明しろと

いうのだ! も う ど う に も な ら ぬ こ と で は な い か ! 〉」( 同 1 8 8

頁8〜12行目)。

g 「 こ こ に ,信 じ ら れ な く な っ た 刺 青 の 彫 り も の ,天 職 の 事 実 上 の

懲 戒 免 職 ,裏 切 ら れ た 借 金 の 肩 代 わ り ,絶 対 的 な 人 間 不 信 ,重 度 の

腰 痛 ,よ ぎ る 自 殺 願 望 ,そ し て 抑 う つ な ど ,人 生 に お け る 多 く の 負

の 条 件 を 背 負 い 込 ん で し ま っ た 私 の ,三 年 間 に お よ ぶ ,孤 独 な 闘 い


14
の火ぶたが切られた。」(同205頁11〜13行目)。

h 「〈 俺 も ,こ の B 先 生 を 信 じ て み よ う 。そ し て 俺 が も し ,こ の 最

後 の 試 験 で ,合 格 す る こ と が で き た な ら ば ,そ の 時 に こ そ ,長 い 間

俺が誰にも口にすることのできずにいた, の胸の憂いを静かに取


り去ろう。 かった刺青の彫りもののことも!
重 天職を失った事実

上の懲戒免職のことも! 借金を肩代わりして人間不信に陥って

いたことも! な に も か も 全 部 ,あ り の ま ま に … … 〉」( 同 2 1 8

頁12〜15行目)。

i 「 私 は 腰 の 痛 み か ら ,あ る 別 の 痛 み を 思 い だ し て い た 。右 足 の 刺

青だ。

実 は ,左 足 の 刺 青 完 成 後 ,そ れ ほ ど 間 隔 を 置 か ず に 右 の 太 股 に も

彫 ろ う と し た の だ が ,気 概 な く ,途 中 で 止 め て い た 。し か も ,そ れ

を施した次の日に, 度はそれをレーザーで焼き切ろうとして整形


外 科 に 行 っ た の だ 。刺 青 を 彫 る た め に 針 を 刺 し た 部 分 に ,レ ー ザ ー

を 照 射 し て 焼 く 。常 識 で は 考 え ら れ な い こ と だ 。」( 同 2 2 9 頁 1

2行目〜230頁1行目)。

j 「信念の崩れた刺青の彫りもの, 職に対する事実上の懲戒免職,


裏 切 ら れ た 借 金 の 肩 代 わ り ,底 な し 沼 の 人 間 不 信 ,襲 い か か る 自 殺

願望,治ることのない抑うつ。」(同263頁9〜10行目)。

(エ) 以 上 の 各 記 述 ( 以 下 「 本 件 各 記 述 」 と い う 。 ) に お い て , 被 告 Y

が ,錯 乱 状 態 に 陥 り ,心 神 喪 失 に な り ,勤 務 先 の 招 待 券 を 横 領・換 金

し ,免 職 に な り ,治療 の た め に 通 院 し た と い う こ と の 発 端 は ,直 接 的

にはA1と称する女性への思い入れと, 女の裏切りによるというも


の で は あ る が ,そ の 文 脈 に お い て ,A 1 の た め に と の 思 い か ら 施 し た

入れ墨が, 告Yにとって無用の長物となり, の入れ墨をしたこと,
被 そ

な い し は 入 れ 墨 の あ る こ と が ,あ た か も 混 乱・錯 乱 の 原 因 に な っ た と


15
い う 表 現 を し て い る の で あ っ て ,こ れ は ,原 告 が 精 魂 を 込 め て 施 し た

本件入れ墨に対する負の評価をしたものであり, 門技能者としての


原告の人格権を侵害するものである。

(オ) ま た ,被 告 Y は ,(ウ)h で 引 用 し た と お り ,医 師 に も 告 げ る こ と の

できなかったマイナスイメージのものとして本件入れ墨を扱った上

で ,行 政 書 士 試 験 に 合 格 し た な ら ば ,こ れ を 医 師 に 告 げ ら れ る と し て

い る 。 そ し て , こ れ に 合 格 を し た こ と を 担 当 医 に 告 げ る の み な ら ず,

本件書籍においてこれを公表することによって, れまで公表できな


かった入れ墨をしたという負い目を乗り越えたとして自賛している

の で あ り ,そ も そ も 原 告 の 施 し た 入 れ 墨 が ,単 に 被 告 Y に と っ て 負 の

も の で あ っ た こ と を 強 調 し て い る の み な ら ず , 一 般 読 者 に 対 し て も,

入れ墨そのものが入れ墨をした者にとって, 匿し乗り越えるべき性


質のものであることを公言しているのであって, れは彫物師として


の原告の人格権を棄損したものである。

イ プライバシー権侵害

(ア) 本 件 書 籍 は , 本 件 入 れ 墨 を 施 し た 原 告 の こ と を 仮 名 で 記 述 し て い

る が ,1 か 所 だ け「X 3 の 先 生 」と 記 述 し た 部 分 が あ る( 1 4 4 頁 9

行目)。

原 告 の 屋 号 は「 X 1 」で あ る か ら ,「 り」が 入 っ て い る の は 誤 り か

誤 植 で あ る が ,こ の 記 述 に よ っ て ,本 件 入 れ 墨 を 施 し た の が 原 告 で あ

ることは他者の知るところとなり得る。

(イ) 本 件 書 籍 に お い て は , 被 告 Y が 初 め て 原 告 を 訪 問 し た 際 の 原 告 の

仕 事 場 兼 居 宅 に お け る 状 況 と し て ,「 奥 さ ん ら し き 人 … … 」( 1 3 8

頁 6 行 目 ),「 二 匹の 黒 と 白 の 飼 い 猫 が … … 旋 回 し て い た 」( 同 7 〜

8行目)との記述がある。

原告は妻と適式に婚姻しているのであるから, さんらしき人と表



16
現 す る の は ,原 告 及 び 原 告 の 妻 の 名 誉 を 害 す る も の で あ る 。猫 に つ い

ては, 告が細密な入れ墨の施術をする仕事場に猫が旋回していたと


記載されることは, 後の原告の業務の受注に影響を与えるものであ


り ,ま た ,原 告 が 賃 借 し て い る 仕 事 場 兼 居 宅 は ,賃 貸 借 契 約 書 に お い

てペット飼育は不可と制限されているため, のことが知られること


は ,原 告 に と っ て の 不 利 益 と な る か ら ,原 告 の プ ラ イ バ シ ー 権 を 侵 害

する。

ウ 以上は,いずれも本件書籍を執筆した被告Yとこれを発行した被告

本の泉社の共同不法行為に該当する。

〔被告らの主張〕

ア 人格権侵害について

本件書籍に本件各記述があることは認める。

原告は, 件書籍が本件入れ墨及び本件入れ墨を施した原告に対し専


ら負の評価を加えているかのように主張するが,事実に反する。

す な わ ち ,本 件 書 籍 の 他 の 部 分 に は ,本 件 入 れ 墨 の 存 在 を 明 確 に 高 評

価 し て い る 部 分 や ,原 告 の 人 格 を 積 極 的 に 評 価 し て い る 部 分 が あ る 。ま

た ,本 件 各 記 述 も ,本 件 入 れ 墨 の 存 在 や 原 告 に 対 す る 直 接 的 な 批 判 や 非

難ではなく, 告Yが本件入れ墨を入れる動機となったそれまでの人生


とその過程で経験した迷いや苦しみを告白したものであることは, 読


す れ ば 明 ら か で あ る 。し か も ,こ れ ら の記 述 は 日 本 社 会 の 入 れ 墨 文 化 に

対する受容と拒絶を反映したものにすぎない。

古代には入れ墨は刑罰の一種であったし, の時代においても社会全


体 が 入 れ 墨 文 化 を 高 く 評 価 し た こ と は な か っ た 。し か し ,遅く と も 江 戸

時 代 ま で に は ,社 会 の 特 定 の 階 層 ,集 団 内 に お い て は ,入 れ 墨 は 他 人 に

誇示すべきものとして積極的に支持と評価を受けるようになった。 柄


の物語性(岩見重太郎像など),神秘性(龍など),華麗さ(花など)


17
を自己の存在と同一化させるとともに, のような入れ墨を施すに当た


って多大な苦痛に耐えたことを誇示するものなのである。 治時代にな


る と ,政 府 は 列 強 に 追 い つ く た め に 文 明 開 化 政 策 を 採 り ,入 れ 墨 を 時 代

遅れの野蛮な存在として厳しく規制した。 のことによって社会的にも


入 れ 墨 は 忌 避 ,隠 匿 す べ き 存 在 と す る 意 識 ,感 情 が 強 化 ,拡大 す る に 至

っ た 。そ れ に も か か わ ら ず ,今 日 に お い て も 入 れ 墨 文 化 を 受 容 す る 流 れ

が脈々と承継されていることは前記の専門誌等からも明らかである。入

れ 墨 文 化 に 対 す る 日 本 社 会 の 二 律 背 反 的 な 意 識 ,感 情 は ,被告 Y に も 反

映せざるを得ないのであって, 記記述はその産物というべきものであ


る。

したがって, 件書籍の原告指摘部分は本件入れ墨や原告に対するマ


イナス評価として読まれるべきものではない。

イ プライバシー権侵害について

(ア) 前 記 の と お り , 原 告 は 各 種 出 版 物 及 び ホ ー ム ペ ー ジ に お い て 原 告

が本件入れ墨の作者であることを公表しているから, 件書籍によっ


て原告のプライバシー権が侵害されることはない。

(イ) 「 奥 さ ん ら し き 人 」 と い う 表 現 は , 被 告 Y は 原 告 か ら 正 式 に 紹 介

されなかったので推測を述べたにすぎず, 告の婚姻関係を否認した


ものでないことは一読して明らかである。 た, 猫が旋回していた」
ま 「

との記述が原告によって都合の悪いことであったとしても, れ自体


が真実である以上, 記記述につき被告らが責任を負うべき筋合いに


ない。

(4) 損 害 及 び そ の 額

〔原告の主張〕

ア 著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)侵害による損




18
(ア) 被 告 ら が 本 件 書 籍 に 本 件 画 像 を 掲 載 し た こ と に よ る 著 作 者 人 格 権

侵害の損害としては, 謝料70万円及び弁護士費用7万円が相当で


ある。

(イ) 被 告 ら が 本 件 各 ホ ー ム ペ ー ジ に 本 件 表 紙 カ バ ー の 写 真 を 掲 載 し た

ことによる著作者人格権侵害の損害としては, れぞれにつき慰謝料


30万円及び弁護士費用5万円が相当である。

イ 人格権侵害及びプライバシー権侵害による損害

被告らが本件書籍を執筆, 行したことによる人格権侵害及びプライ


バシー権侵害の損害としては, 謝料30万円及び弁護士費用3万円が


相当である。

〔被告らの主張〕

全て争う。

第3 当裁判所の判断

1 争点(1)(本件入れ墨の著作物性)について

証拠(甲11,12の1〜3,13の1,2,17)及び弁論の全趣旨によ

れば,次の事実を認めることができる。

(1) 入れ墨の一般的な制作過程

ア 下絵の作成

依頼者から入れ墨の施術を依頼されると,まず依頼者の希望する図柄を

基に輪郭線による下絵を作成する。

下絵の作成は,白地の紙にシャープペンシル又はボールペンで書き入れ

る方法による。

出来上がった下絵について,依頼者の了解を得る。

イ 貼り絵の作成

複写機を使用して下絵を半透明の用紙に複写し,これを特殊な転写機を

使用して薄い和紙に転写することにより貼り絵を作成する。


19
ウ 貼り絵による輪郭線の転写

入れ墨を入れる部分の皮膚にスピードスティックという糊を塗って貼り

絵を貼り,更にその上からスピードスティックを塗ることによって,貼り

絵の描線が皮膚に転写される。

エ 輪郭線の墨入れ

転写された輪郭線に沿って,入れ墨用の機械(手に握る程度の大きさで

先端に針を装着する器具。以下「刺青機械」という。)を使って輪郭線を

描いていく。この作業を輪郭線の筋彫りともいう。刺青機械は1本針又は

3本針のものを使用する。通常は3本針のものを使用するが,細かい線を

彫るときは1本針のものを使用する。インクは人体に無害な黒色の入れ墨

用インクを使用する。

人体の皮膚に彫れる長さは1度に7〜8pくらいであり,刺青機械はミ

シンのように針が上下に出入りを繰り返す。針が皮膚に入る深さは1本針

で2〜3o程度,3本針で3o程度である。1本針のときはペンのように

持って,75〜90度の角度で紙に線を引くのと同じように輪郭線に沿っ

て墨を入れていくが,3本針のときは線を引くようにはせず,35〜45

度の角度で小刻みに円を描きながら2o四方の面積ごとに黒く塗り潰して

いく。

入れ墨は肉(筋組織)に色を入れるのではなく,皮膚と筋組織との間の

皮下組織に針で入れ墨用インクを入れていく作業である。痛みや体力を考

慮すると一度に彫れる時間は2〜3時間くらいであり,傷が治らないと次

の作業に移れないので,次の作業までに1週間から10日くらい掛かる。

オ ぼかしの墨入れ

薄墨を使用して描線と描線の間に「ぼかし」と呼ばれる濃淡の表現(グ

ラデーション)を入れる。このときの刺青機械は5本針又は12本針のも

のを使用する。


20
5本針の刺青機械は細かいところのぼかし用であり,パイプから5o程

度針が出入りを繰り返すが,1本針のものとは動きが異なり,35〜45

度の角度で小刻みに円を描きながら2〜5o四方の面積をぼかしていく。

針が皮膚に入る深さは5o程度である。

12本針の刺青機械はパイプから7o程度針が出入りを繰り返し,35

〜45度の角度で小刻みに円を描きながら5〜10o四方の面積をぼかし

ていく。針が皮膚に入る深さは2〜5o程度で,浅く刺せば薄く,深く刺

せば濃く色合いが変化する。

ぼかしの墨入れは,美術感覚が重視される過程であり,使用するインク

や墨入れのやり方次第で仕上がり方の色合いも様々となる。

カ 上記ウ〜オの作業を経て最終的に入れ墨が完成するまでにおよそ6〜7

日を要し,さらに,色合いが落ち着くまでは傷の完治を待つ必要がある。

(2) 本件入れ墨の制作過程

ア 図柄の選定と本件下絵の作成

平成13年10月19日,被告Yが原告の作業場を訪れ,自己の左大腿

部に仏像と文字の入れ墨を入れることを希望した。

仏像については,被告Yが優しい表情のものを希望していたので,原告

は,「日本の仏像100選」の中から本件仏像の写真を選んで被告Yに薦

めた。被告Yは本件仏像の全体を入れることを希望したが,原告は,本件

仏像の頭上にある数々の小さい顔の表情も生かせるよう,本件仏像の上半

身のみで顔だけ大きく入れた方が良いこと,本件仏像写真では本件仏像が

向かって右を向いているが,このままの向きで被告Yの左大腿部に入れ墨

を施した場合,本件仏像が被告Yに背を向けることになり本件仏像に失礼

なので,向きを左向きに変えて下絵を作成する必要があることを説明した。

また,被告Yが本件仏像の表情は険しい顔と優しい顔の中間くらいであり,

ある女性を守っていただきたいという願いをこれから彫り上げる仏像に託


21
したいので,もう少し表情を優しく作って欲しいと要望したことから,原

告は,眉,目などを穏やかな表情に変えて下絵を作ることを約束した。

文字については,被告Yが本件仏像の脇に縦2行10字ずつ毛筆体で

「観世音菩薩 常願常守護 我為不要似 愛御名A」 入れることを希


望 し( 本 件 文 字 部 分 ),「 A 」の 部 分 は 女 性 の 名 で あ る こ と が 分 か っ た

ので, 告は一度彫ったら消せないので後悔しないかと被告Yに尋ねた


が ,被 告 Y が 強 く 希 望 し た た め ,同 人 の 希 望 ど お り 本 件 文 字 部 分 を 入 れ

ることになった。

原告は,第1回目の予約日である同年11月1日までの間に,本件仏像

写真を手元に置き,これを参考にして太さ0.5oのシャープペンシルを

使用して本件下絵を作成した。その際,原告は,前記説明及び約束のとお

り,本件仏像の向きを左向きに変え,顔の表情は本件仏像写真よりも優し

い表情のものとして仕上げた。

イ 第1回目(本件仏像の輪郭線の筋彫り)

平成13年11月1日,原告は,被告Yに対し,完成した本件下絵を示

して同人の了解を得,前記(1)イの手順で貼り絵を作成した。

原告は,被告Yの左大腿部を剃毛し,弱性洗剤で皮膚の油分を取り除い

て,そこに本件仏像の貼り絵を貼り付けた。そして,貼り絵から被告Yの

皮膚にインクが移って乾くまで5分ほど休憩した後,被告Yを施術用ベッ

ドに仰向けに寝かせ,刺青機械に1本針を装着して本件仏像の輪郭線を彫

る作業を開始した。

原告が本件仏像の輪郭線を彫るのに要した時間は合計2時間30分程度

であり,終わった後は洗面台で余計なインクを洗い落とし,彫った傷口に

軟膏を塗って第1回目の作業が終了した。

ウ 第2回目(文字の輪郭線の筋彫り)

平成13年11月10日,原告は,被告Yの左大腿部に本件文字部分の


22
輪郭線を入れる作業を行った。

エ 第3回目(描線の下書きと墨入れ)

平成13年11月20日,原告は,被告Yの左大腿部に入れた本件仏像

の輪郭線の内部に細かい描線を描き入れる作業を行った。

同作業は,「日本の仏像100選」から本件仏像写真の頁を開いて大型

のクリップで閉じないように固定し,それを参考にしながら,仏像の内部

の線(描線)を手術用のペンを使って手書きで描き入れた後,当該描線に

1本針の刺青機械を用いて墨を入れていくというものであり,作業時間は

2時間程度であった。

オ 第4回目(文字の墨入れ)

平成13年12月5日,原告は被告Yの左大腿部に入れた本件文字部分

を黒く塗り潰していく作業を行った。同作業は3本針の刺青機械を使用し,

作業時間は3時間程度であった。

カ 第5回目(本件仏像のぼかしの墨入れ)

平成13年12月12日,原告は被告Yの左大腿部に入れた本件仏像に

ぼかしの墨を入れていく作業を行った。

この作業は,本件仏像写真を参考にしながら,入れ墨用黒インクを薄め

液で薄めて,薄いものから濃いものまで5段階の液を作り,5本針と12

本針の刺青機械を使用して水墨画の様に濃淡のグラデーションを付けてい

く,というものであり,作業時間は3時間程度であった。

キ 第6回目(仕上げ)

平成13年12月26日,本件入れ墨の仕上がり状態を確認し,本件仏

像の立体感をより強調するため,脇を濃い目にする総仕上げの作業を行っ

た。作業時間は2時間程度であり,これにより本件入れ墨は完成した。

(3) 本件仏像写真と本件入れ墨との対比

本件仏像写真(甲16の2)は,本件仏像の全身を向かって左斜め前から


23
撮影したカラー写真であり,本件仏像の表情や黒色ないし焦げ茶色の色合い

がほぼそのままに再現されている。

これに対し,本件入れ墨(甲8の3)は,本件仏像写真をモデルにしなが

らも,本件仏像の胸部より上の部分に絞り,顔の向きを右向きから左向きに

変え,顔の表情は,眉,目などを穏やかな表情に変えるなどの変更を加えて

いること,本件仏像写真は,平面での表現であり,仏像の色合いも実物その

ままに表現されているのに対し,本件入れ墨は,人間の大腿部の丸味を利用

した立体的な表現であり,色合いも人間の肌の色を基調としながら,墨の濃

淡で独特の立体感が表現されていることなど,本件仏像写真との間には表現

上の相違が見て取れる。

そして,上記表現上の相違は,本件入れ墨の作成者である原告が,下絵の

作成に際して構図の取り方や仏像の表情等に創意工夫を凝らし,輪郭線の筋

彫りや描線の墨入れ,ぼかしの墨入れ等に際しても様々の道具を使用し,技

法を凝らして入れ墨を施したことによるものと認められ,そこには原告の思

想,感情が創作的に表現されていると評価することができる。したがって,

本件入れ墨について,著作物性を肯定することができる。

(4) 被告らは,本件入れ墨は本件仏像写 真 の 単 な る 機 械 的 な 模 写 又 は 単 な る

模 倣 に す ぎ な い か ら 著 作 物 性 が 認 め ら れ な い と 主 張 し ,そ の 理 由 と し て ,

@本件下絵は本件仏像写真の上にトレーシングペーパーを重ね,上から

鉛筆で描線をトレースして作成したものにすぎないこと,A本件下絵か

ら貼り絵を作成し,これを入れ墨施術部位に貼り付け,裏側のインクを

皮膚に定着される過程は,全て機械的転位にすぎず,そこには創作性の

入る余地はないこと,B輪郭線の描写は,全て本件下絵に基づくか,本

件下絵になかったとしても基となる本件仏像写真に表われているか,彫

物師なら誰でも思い付く程度のもので創作性を認めるに値しないこと,

Cぼかしについても,本件入れ墨の場合,ほぼ本件仏像写真の陰影と同


24
一であって,これは写真の模倣にすぎず,創作性を認めることができな

いことを挙げる。

しかしながら,上記@は前提とする事実が誤りである。そして,原告

は , 本 件 入 れ 墨 の 制 作 に 当 た り , @ 下絵の作成に際して構図の取り方や仏

像の表情等に創意工夫を凝らしたこと,A入れ墨を施すに際しては,輪郭線

の筋彫りや描線の墨入れ,ぼかしの墨入れ等に際しても様々の道具を使用し,

技法を凝らしたこと,これにより本件入れ墨と本件仏像写真との間には表現

上の相違があり,そこには原告の思想,感情が創作的に表現されていると評

価することができることは上記説示のとおりであり,本件入れ墨が本件仏像

写真の単なる機械的な模写又は単なる模倣にすぎないということはでき

ず,被告らの上記主張は採用することができない。

2 争点(2)( 著 作 者 人 格 権 侵 害 の 成 否 ) に つ い て

上記1のとおり,本件入れ墨は,原告が創作したものであり,その著作

者であると認められるから, 告は,
原 本件 入 れ 墨 の 著 作 者 人 格 権 を 有 す る 。

(1) 公 表 権 侵 害 の 成 否

ア 本件画像は,本件入れ墨を撮影した写真を加工して作成したもので

あ る か ら ,本 件 入 れ 墨 に 依 拠 し た も の で あ る 。そ し て ,本 件 入 れ 墨 と 本

件 画 像 と を 対 比 す る と ,本 件 画 像 は ,陰 影 が 反 転 し ,セ ピ ア 色 の 単 色 に

変 更 さ れ て い る が ,本 件 入 れ 墨 の 表 現 上 の 同 一 性 が 維 持 さ れ て お り ,そ

の 表 現 上 の 本 質 的 特 徴 を 直 接 感 得 す る の に 十 分 な 大 き さ ,状 態 で ,ほ ぼ

全体的にその表現が再現されていると認められ,他方,上記変更には,

創 作 性 が あ る と は 認 め ら れ な い 。し た が っ て ,本 件 画 像 は ,本 件 入 れ 墨

の複製物である。

イ しかしながら,原告は,本件書籍の初版第1刷が発行され,本件各

ホームページに本件表紙カバーの写真が掲載された平成19年7月1

日 よ り も 前 に ,本 件 入 れ 墨 の 写 真 を ,株 式 会 社 コ ア マ ガ ジ ン 発 行 の 雑 誌


25
「 バ ー ス ト 」平 成 1 4 年 3 月 号( 乙 4 ),同 会 社 発 行 の 雑 誌「 タ ト ゥ ー・

バ ー ス ト 」同 年 5 月 号( 乙 6 ),株 式 会 社 竹 書 房 発 行 の 雑 誌「 月 刊 実 話

ド キ ュ メ ン ト 」同 年 4 月 号( 乙 5 )の 各 広 告 欄 に 掲 載 し た こ と が 認 め ら

れ, 告はその著作物である本件入れ墨の複製物を被告らが公表する前


に自ら公刊物に掲載して公表していたことが明らかである。

したがって, 件入れ墨は未公表の著作物ということはできないから,


被告らの上記行為が, 告の有する本件入れ墨の公表権を侵害するもの


ということはできない。

ウ この点について,原告は,著作物をいかなる媒体においていかなる

形 式 で 公 表 す る か は ,専 ら 著 作 者 で あ る 原 告 に 専 属 す る 権 利 で あ り ,著

作者の承諾していない媒体に著作物を掲載することは, 作者の一身専


属 的 な 公 表 権 を 侵 害 す る と 主 張 す る 。し か し な が ら ,原 告 が 自 ら 本 件 入

れ墨を公表した以上, の後に被告らがこれを原告の承諾していない媒


体に掲載したからといって, れが公表権を侵害するということはでき


ず,原告の上記主張は採用することができない。

(2) 氏 名 表 示 権 侵 害 の 成 否

ア 本 件 画 像 が 本 件 入 れ 墨 の 複 製 物 と 認 め ら れ る こ と は ,上 記 (1)ア に 説

示 し た と お り で あ り ,本 件 画 像 が 掲 載 さ れ た 本 件 表 紙 カ バ ー ,本 件 扉 及

び本件表紙カバーの写真を掲載した本件各ホームページには, ずれも


本件入れ墨の著作者である原告の氏名が表示されていないことは当事

者間に争いがない。

そ し て ,被 告 Y は 本 件 書 籍 を 執 筆 す る に 際 し ,被 告 本 の 泉 社 は 本 件 書

籍を発行するに際し, 件画像を上記のとおり本件表紙カバー及び本件


扉に掲載したものであるから, 同して本件画像を公衆に提供したもの


と 認 め ら れ る 。ま た ,被 告 Y は 本 件 ホ ー ム ペ ー ジ 1 に 本 件 表 紙 カ バ ー の

写真を掲載したものであり, 告本の泉社は本件ホームページ2に本件



26
表紙カバーの写真を掲載したものであり, ずれも本件画像を公衆に提


示したものと認められる。

イ 被告らは,上記各掲載について,著作権法19条3項により著作者

名の表示を省略することができる場合に該当すると主張し, の理由と


し て ,@ 本 件 書 籍 に お け る 本 件 入 れ 墨 の 利 用 目 的 は ,本 件 入 れ 墨 の 芸 術

的価値を付加することによって本件書籍の価値を高めることにあった

の で は な く ,か え っ て ,被 告 Y が そ の 人 生 の 中 で 特 定 の 女 性 に 対 す る 強

い心情から痛苦に耐えて本件入れ墨を施したことを記し, の人生の集


約又は象徴として本件入れ墨を表出したものであること, 本件画像は
A

原告から無償譲渡された写真によるものであって, 告もその合理的範


囲 に お け る 利 用 を あ ら か じ め 容 認 し て い た こ と ,B 執 筆 の 中 に ,そ の 内

容 の 集 約 又 は 象 徴 と し て 絵 画 ,写 真 な ど を 掲 載 す る こ と は ,公 の 慣 行 に

属し, に著作者名を表示しなければ著作者の利益を害すると認められ


る場合でない限り,著作者名を省略することが許容されるべきであり,

本件は正にこれに該当することなどを挙げる。

し か し な が ら ,本 件 書 籍 に お い て ,本 件 入 れ 墨 は ,表 紙 カ バ ー 及 び 扉

という書籍中で最も目立つ部分において利用されていること, 件表紙


カバー及び本件扉は, ずれも本件入れ墨そのものをほぼ全面的に掲載


す る と と も に ,「 合 格 ! 行 政 書 士 南 無 刺 青 観 世 音 」と い う タ イ ト ル と

相まって殊更に本件入れ墨を強調した体裁となっていることからすれ

ば, 者の本件書籍に対する興味や関心を高める目的で本件入れ墨を利


用しているものと認められ, 件入れ墨の利用の目的及び態様に照らせ


ば, 作者である原告が本件入れ墨の創作者であることを主張する利益


を害するおそれがないと認めることはできない。

また, 告が本件画像の基となる写真を被告Yに対し無償で譲渡して


いたとしても, れだけで原告が本件入れ墨の利用を許諾していたもの



27
と認めることはできず, かに原告が被告らによる本件入れ墨の利用を


許諾していたことを認めるに足りる証拠はない。

さらに, 籍中に入れ墨の写真を掲載するに際し著作者名の表示を省


略することが公正な慣行に反しないと認めるに足りる証拠はない 竹書


房 平 成 1 4 年 4 月 1 日 発 行 の 雑 誌「 月 刊 実 話 ド キ ュ メ ン ト 」同 年 4 月 号

〔 乙 5 〕に 掲 載 さ れ た 入 れ 墨 の 写 真 に は ,彫 物 師 の 屋 号 が 表 示 さ れ て い

ることが認められる。)。

したがって, 告らによる上記各掲載が著作権法19条3項により著


作者名の表示を省略することができる場合に該当すると認めることは

できず,被告らの上記主張は採用することができない。

ウ 以上によれば,本件入れ墨の著作者である原告の氏名を表示しない

まま, 件入れ墨の複製物である本件画像を本件書籍及び本件各ホーム


ページに掲載した被告らの行為は, ずれも原告が有する本件入れ墨の


氏 名 表 示 権 を 侵 害 す る も の で あ り ,ま た ,こ の 点 に 関 し 被 告 ら に 少 な く

とも過失が認められることは明らかである。

(3) 同一性保持権侵害の成否

ア 本 件 入 れ 墨 と 本 件 画 像 と を 対 比 す る と ,本 件 画 像 は ,陰 影 が 反 転 し ,

セ ピ ア 色 の 単 色 に 変 更 さ れ て い る こ と は , 上 記 (1)ア の と お り で あ る 。

そ し て ,被 告 ら は ,原 告 に 無 断 で ,原 告 の 著 作 物 で あ る 本 件 入 れ 墨 に 上

記の変更を加えて本件画像を作成し, れを本件書籍及び本件各ホーム


ページに掲載したものであり, のような変更は著作者である原告の意


に反する改変であると認められ, 告が本件入れ墨について有する同一


性保持権を侵害するものである。

イ 被告らは,本件画像は原告から無償譲渡された写真によるものであ

り, 告は当該写真の利用方法につき何らの制約も加えるところがなか


っ た の で ,被 告 ら が 無 償 譲 渡 さ れ た 写 真 を 本 件 書 籍 に 掲 載 す る 際 ,ネ ガ


28
とポジを反転し, ノクロ化したことは原告の許容した利用範囲にとど


まり,原告の同一性保持権を侵害するものではないと主張する。

し か し な が ら ,原 告 が 写 真 を 譲 渡 し た か ら と い っ て ,そ れ だ け で 原 告

が上記のような改変を許容していたとは認められず, かにそのように


認 め る に 足 り る 証 拠 は な い 。し た が っ て ,被 告 ら の 上 記 主 張 は 採 用 す る

ことができない。

ウ 以上によれば,上記アの改変は,原告が本件入れ墨について有する

同 一 性 保 持 権 を 侵 害 す る も の で あ り ,ま た ,こ の 点 に 関 し 被 告 ら に 少 な

くとも過失が認められることは明らかである。

3 争 点 (3)( 人 格 権 及 び プ ラ イ バ シ ー 権 侵 害 の 成 否 ) に つ い て

(1) 人格権侵害の成否

ア 本 件 書 籍 に 本 件 各 記 述 が あ る こ と は 当 事 者 間 に 争 い が な く ,原 告 は ,

本件各記述について, 告が精魂を込めて施した本件入れ墨に対する負


の評価をしたものであり, れは専門技能者としての原告の人格権を侵


害 す る ,そ も そ も 原 告 の 施 し た 入 れ 墨 が ,単 に 被 告 Y に と っ て も 負 の も

の で あ っ た こ と を 強 調 し て い る の み な ら ず ,一 般 読 者 に 対 し て も ,入 れ

墨そのものが入れ墨をした者にとって, 匿し乗り越えるべき性質のも


のであることを公言しているのであって, れは彫物師としての原告の


人格権を棄損したものであると主張する。

イ しかしながら,証拠(甲9)によれば,本件書籍には,本件各記述

がある一方で,次の各記述があることも認められる。

(ア) 「 私 の 左 右 の 太 股 に は 刺 青 が 彫 っ て あ る 。 左 の 足 に は 立 派 な 十 一

面観音像」(本件書籍3頁5行目)

(イ) 「 私 が 彫 っ て い た だ い た 彫 り 師 の 先 生 は , 東 京 都 に 構 え て お ら れ

た ,X 4〈 仮 名 〉と い う ,大 変 腕 の 良 い ,素 晴 ら し い 方 だ っ た 。」( 同

136頁7〜8行目)


29
(ウ) 「 私 の 依 頼 し た X 4 の 先 生 は , そ の 卓 越 し た 技 術 も さ る こ と な が

ら ,私 な ど 太 刀 打 ち で き ぬ 素 晴 ら し い 人 格 の 持 ち 主 だ っ た 。」( 同1

37頁12〜13行目)

(エ) 「 私 の 左 足 の ,太 股 全 体 に 施 さ れ た 白 黒 の ポ ー ト レ ー ト の そ れ は ,

とても人間業ではないと思えるほどに, 部に至るまでX4の先生の


気 が 配 ら れ て お り ,私 が 持 参 し た ,「 十 一 面 観 音 菩 薩 像 」の モ デ ルの

写 真 そ の ま ま に 仕 上 げ て い た だ い た も の だ 。こ れ は も う 立 派 な ,「 彫

りもの」なのだ。

業界ルールで厳密に区別すれば,私の刺青には落款はないので,

「タトゥー」 なるのかもしれないが, にとっては, りである 彫
に 私 誇 「

りもの」だ。」(同139頁13行目〜140頁1行目)

(オ) 「 「 十 一 面 観 音 菩 薩 像 」 。 左 手 に 紅 蓮 華 を 挿 し た 水 瓶 を 持 ち , 右

手は施無畏印を結んでいる。 の功徳は, 諸の抜苦与楽と苦難除去,
そ 諸

す な わ ち ,病 気 を し な い ,衣 食 住 に 不 自 由 し な い ,水 難 火 難 を 免 れる

などの 十種の勝利」 , 終時に諸仏を見られる, 獄に堕ちない,
「 と 臨 地

極 楽 へ 行 け る な ど の「 四 種 の 果 報 」で ある 。こ れ が ,私 の 左足 の 太 股

にある, 彫りもの」 。 回の施行を経て, 成した尊い観音様だ。
「 だ 九 完 」

(同142頁5〜9行目)

ウ また,本件書籍は,原告が指摘するとおり,平成18年度の行政書

士 試 験 に 合 格 し た と い う 被 告 Y が ,出 生 か ら 様 々 な 苦 難 ,不 祥 事 ,病 気

を乗り越えて, の試験に合格したという来歴を自ら記述したものであ


り ,大 要 ,@ 幼 児 期 に お い て 家 庭 的 に 恵 ま れ な か っ た こ と ,A 就 職 に 失

敗 し た こ と ,B 勤 務 し た 映 画 館 に お い て 横 領 を し て 解 雇 さ れ た こ と ,C

こ の 間 ,女 性 に 金 銭 を 貢 い だ が ,結 局 ,だ ま さ れ た こ と ,D そ の 女 性 に

影 響 さ れ て ,脇 に そ の 名 前( 源 氏 名 )を 彫 り 込 ん だ 本 件 入 れ 墨 を し た こ

と ,E そ の 女 性 の た め と の 考 え か ら 入 れ 墨 を し た も の の ,そ の 女 性 か ら


30
だ ま さ れ て い た こ と が わ か り ,う つ 病 に 陥 り ,精 神 科 に 通 院 し て 治 療 を

受 け た こ と ,F し か し ,こ れ を 乗 り 越 え て ,行 政 書 士 試 験 に 合 格 し た こ

と等が記載されているものである(甲9)。

エ 本件書籍全体の上記内容や,原告及び本件入れ墨を肯定的に評価す

る 上 記 イ (ア)〜 (オ)の 各 記 述 を 考 慮 す れ ば ,本 件 各 記 述 は ,あ る 女 性 を 信

じて自己の身体に本件入れ墨を入れたものの, の後当該女性に裏切ら


れたことで精神的に混乱を来してしまい, 己の信念の証であった本件


入れ墨まで精神的に負担になってしまったということを述べているが,

それ以上に彫物師である原告又は原告の手による本件入れ墨自体の価

値や評価を貶める意図や効果があるものとは認められない。

したがって, 件各記述が原告の人格権を侵害するものと認めること


はできない。

(2) プライバシー権侵害の成否

ア 原告は,本件書籍においては,入れ墨を施した原告のことを仮名で

表 記 し て い る が ,1 か 所 だ け「 X 3 の 先 生 」と 記 述 し た 部 分 が あ り( 1

4 4 頁 9 行 目 ),同 記 述 に よ っ て ,本 件 入 れ 墨 を 施 し た の は 原 告 で あ る

ことが他者の知るところとなり得ると主張する。

し か し な が ら ,そ も そ も ,原 告 は 彫 物 師 で あ り ,業 と し て 入 れ 墨 を 行

う 者 で あ る か ら ,原 告 に と っ て 本 件 入 れ 墨 を 施 術 し た こ と が ,プ ラ イ バ

シー権の対象となる私生活上の事実に該当するとはいえない。

ま た ,本 件 書 籍 に 登 場 す る 彫 物 師 の 属 性 は ,せ い ぜ い ,屋 号が「 X 4 」

で あ る こ と ,東 京 都 に 自 宅 な い し 作 業 場 を 持 っ て い る こ と ,奥 さ ん ら し

き 人 が い る こ と ,猫 を 飼 っ て い る こ と の 4 つ で あ っ て( 甲 9 ),1 か 所

だけ X4」 はなく X3の先生」 記述した部分があったとしても,
「 で 「 と

こ れ だ け で は ,一 般 の 読 者 は も ち ろ ん の こ と ,原 告 と 面 識 が あ る 者 で あ

ったとしても,原告を同定し得るものとは認め難い。


31
したがって, 記記述が原告のプライバシー権を侵害するものと認め


ることはできない。

イ 原告は,本件書籍においては,被告Yが初めて原告を訪問した際の

原告の仕事場兼居宅における状況として, 奥さんらしき人……」「二
「 ,

匹 の 黒 と 白 の 飼 い 猫 が … … 旋 回 し て い た 」と の 記 述 が あ り ,前 者 は 婚 姻

関係にある原告及び原告の妻の名誉を害する, 者は衛生に気を使う仕


事をし, ット飼育不可の賃借物件に居住する原告にとって不利益な記


載であるから,原告のプライバシー権を侵害すると主張する。

し か し な が ら ,前 者 の 記 述 に つ い て は ,被 告 Y が 初 め て 原 告 を 訪 問 し

た際の状況として, 告の妻を 奥さんらしき人」 表現したとしても,
原 「 と

そ れ は ,初 め て 原 告 を 訪 問 し た 被 告 Y に と っ て ,原 告 の 傍 ら に い る 女 性

が原告と婚姻関係にある女性かどうか直ちに分からなかったという被

告Yの認識を意味するにすぎず, れ以上に原告夫婦の婚姻関係を殊更


に否定するなど何らかの悪意が込められていることまでは読み取れな

い 。し た が っ て ,当該 記 述 に よ り 原 告 及 び 原 告 の 妻 の 社 会 的 名 誉 が 低 下

するものとは認められず, れが原告及び原告の妻の名誉を害するもの


と認めることはできない。

後者の記述についても, 該記述は殊更に原告が仕事場で猫を飼育し


ているとか, ット飼育不可の賃借物件で猫を飼育しているなどと記載


しているのではなく, に訪問先に飼い猫がいたことを述べているにす


ぎないし, い猫がいること自体は社会生活上ごくありふれたことであ


っ て ,一 般 人 に と っ て 公 開 を 欲 し な い 事 柄 で あ る と は 認 め ら れ な い 。仮

に原告が主張するような事情から原告にとってはそれが公開を欲しな

い 事 柄 で あ っ た と し て も ,そ も そ も 本 件 書 籍 の 記 載 の み で は ,本 件 書 籍

に登場する彫物師が原告であると同定できないことは前示のとおりで

あ っ て ,こ れ に よ れ ば ,当 該 記 述 か ら 直 ち に 原 告 に 不 利 益 が 及 ぶ も の と


32
は認められず, れが原告のプライバシー権を侵害するとは認められな


い。

以上によれば, 記各記述はいずれも原告のプライバシー権を侵害す


るものということはできない。

4 争 点 (4)( 損 害 及 び そ の 額 ) に つ い て

(1) 被 告 ら の 責 任

前 記 2 (2), (3)に よ れ ば , 被 告 ら が 原 告 に 対 し 不 法 行 為 責 任 を 負 う 範

囲は次のとおりである。

ア 被告らは,平成19年7月1日以降,本件入れ墨の著作者である原告の

氏名を表示しないまま,本件入れ墨に原告の意に反する改変をした本件画

像を本件書籍に掲載し,原告が本件入れ墨について有する氏名表示権及び

同一性保持権を侵害したものであって,上記侵害について被告らには少な

くとも過失が認められるから,被告らの上記行為は共同不法行為に該当す

る。

よって,被告らは,原告に対し,連帯して,原告が上記共同不法行為に

より被った損害を賠償する義務がある。

イ 被告Yは,平成19年7月1日以降,本件ホームページ1に本件表紙カ

バーの写真を掲載し,原告が本件入れ墨について有する氏名表示権及び同

一性保持権を侵害したものであって,上記侵害について被告Yには少なく

とも過失が認められるから,被告Yの上記行為は不法行為に該当する。

よって,被告Yは,原告に対し,原告が上記不法行為により被った損害

を賠償する義務がある。

ウ 被告本の泉社は,平成19年7月1日以降,本件ホームページ2に本件

表紙カバーの写真を掲載し,原告が本件入れ墨について有する氏名表示権

及び同一性保持権を侵害したものであって,上記侵害について被告本の泉

社には少なくとも過失が認められるから,被告本の泉社の上記行為は不法


33
行為に該当する。

よって,被告本の泉社は,原告に対し,原告が上記不法行為により被っ

た損害を賠償する義務がある。

(2) 本 件 書 籍 に よ る 損 害

ア 著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)侵害による慰謝料

本件入れ墨の制作過程や被告らによる著作者人格権侵害の態様, 件


書籍の発行部数と実売部数, の他本件に表われた一切の事情を考慮す


れ ば ,被告らの著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)侵害により原

告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は20万円と認めるのが相当である。

イ 弁護士費用相当額

本件訴訟の難易, 求の内容及び認容額その他諸般の事情を考慮する


と ,被 告 ら の 著 作 者 人 格 権( 氏 名 表 示 権 ,同 一 性 保 持 権 )侵 害 と 相 当 因

果関係のある弁護士費用相当額の損害は4万円と認めるのが相当であ

る。

(3) 本 件 ホ ー ム ペ ー ジ 1 に よ る 損 害

ア 著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)侵害による慰謝料

本件入れ墨の制作過程や被告Yによる著作者人格権侵害の態様, 件


ホームページ1における本件表紙カバーの写真の掲載期間, の他本件


に 表 わ れ た 一 切 の 事 情 を 考 慮 す れ ば , 被告Yの著作者人格権(氏名表示

権,同一性保持権)侵害により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は

10万円と認めるのが相当である。

イ 弁護士費用相当額

本件訴訟の難易, 求の内容及び認容額その他諸般の事情を考慮する


と ,被 告 Y の 著 作 者 人 格 権( 氏 名 表 示 権 ,同 一 性 保 持 権 )侵 害 と 相 当 因

果関係のある弁護士費用相当額の損害は2万円と認めるのが相当であ

る。


34
(4) 本 件 ホ ー ム ペ ー ジ 2 に よ る 損 害

ア 著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)侵害による慰謝料

本件入れ墨の制作過程や被告本の泉社による著作者人格権侵害の態

様 ,本 件 ホ ー ム ペ ー ジ 2 に お け る 本 件 表 紙 カ バ ー の 写 真 の 掲 載 期 間 ,そ

の 他 本 件 に 表 わ れ た 一 切 の 事 情 を 考 慮 す れ ば , 被告本の泉社の著作者人

格権(氏名表示権,同一性保持権)侵害により原告が被った精神的苦痛に

対する慰謝料は10万円と認めるのが相当である。

イ 弁護士費用相当額

本件訴訟の難易, 求の内容及び認容額その他諸般の事情を考慮する


と ,被 告 本 の 泉 社 の 著 作 者 人 格 権( 氏 名 表 示 権 ,同 一 性 保 持 権 )侵 害 と

相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害は2万円と認めるのが相

当である。

5 結論

以 上 に よ れ ば ,原 告 の 請 求 は ,@ 上 記 4 (1)ア の 共 同 不 法 行 為 に よ る 損 害

賠 償 請 求 権 に 基 づ き ,被告らに対し,連帯して24万円及びこれに対する不法

行為の後の日である平成19年7月2日から支払済みまで民法所定の年5分の

割合による遅延損害金の支払を,A同イの不法行為による損害賠償請求権に基

づき,被告Yに対し,12万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成

21年5月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金

の支払を,B同ウの不法行為による損害賠償請求権に基づき,被告本の泉社に

対し,12万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成22年2月26

日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める

限度で理由があるから,これを認容し,その余はいずれも理由がないから

棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部




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裁判長裁判官



岡 本 岳



裁判官



坂 本 康 博



裁判官



寺 田 利 彦




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